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Mentor’s Eye 田中 邦裕氏 メッセージ

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■第16回 「会社には目的が必要」
                                                [2015/02/16,2015/03/16メルマガ配信]
さくらインターネット株式会社
代表取締役社長 田中 邦裕氏
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1.【はじめに】

私が起業をしたのは19年前の1996年、その時は18歳でした。今から思えば無謀なことをしたものだと思いますし、その時は苦労も少なくなかったのですが、どちらかというと本当に毎日が新たな発見でワクワクしながら過ごしていたということばかり思い出します。
その時に創業したのがさくらインターネットで、いまと同じインターネットのサーバーインフラを提供するビジネスをしていました。
もちろん、19年という歴史の中では、他にも様々なビジネスをやっていました。ソフトウェアの受託開発もしましたし、パソコンのディスプレイやCPUを販売したこともありました。また上場して余裕が出てきたときには、動画配信をしたりオンラインゲームを提供したりと、手広くやっていました。
しかし、現在では創業事業であるサーバーインフラ・インターネットインフラの提供をすることをメインに据えています。
今回お伝えしたいことは、自分が何のために起業したのかという目的を明確にし、その想いを裏切ることなく、目標のために突っ走るべしということです。
どうしても、会社の状況によって想いとは違うことをしなければならなかったり、手を広げてみたりしがちですが、「何のために」ということを明確にすることによって、より企業は強くなれると考えています。

2.【会社をどのくらい大きくするのか】

起業するに至るプロセスは人によってさまざまだと思います。
例えば、目的は無いけどもとりあえず起業してみようと言う人もいれば、明確にやりたい目的があってそのために起業しようと言う人も居るでしょう。
私はどちらでもいいと思いますし、とりあえず一生で一度でも「社長」と呼ばれる経験をすることだけでも、それは価値のあるものだと思います。
ただ、一つだけ決めておかないと行けないことがあります。それは、会社を大きくするのか、しないのかということです。
1人でやり続けるのであれば、特に目的が無くてもいいと思いますし、最低限生活が出来ればいいということでよいでしょう。
しかしながら、大きくしていきたいということになると話は別です。会社を続けていくための目的を明確化しなければなりません。
会社が大きくなってくると、ステークホルダーといわれる、顧客、社員、株主ほか、たくさんの人たちとコミュニケーションをする必要がありますが、明確に目的が無い状況では明確な判断が出来ないことが多くなります。
例えば、「柴犬の魅力を日本中に伝え人々の生活を豊かにしよう」という目的の会社があったとします。その時、外部の顧客から「シャム猫が欲しい」と言われても、自らの目的から離れているので明確に断ることができます。
企業の目的を明確にすることで、先ほどの例であれば本当に心から柴犬を愛してやまない人が仲間として集まってきますし、そのような人たちと素晴らしい仕事が出来ます。また、柴犬に特化した様々なソリューションを開発するなど、一貫した企業経営が出来ると思います。
例えば企業が明確な目的を持っていないとすると、突然上司から「明日からウサギの世話してね」と言われた、柴犬を愛するその社員は、やりがいを無くしてしまうでしょうし、場合によっては会社から離れてしまうでしょう。
少し例が分かりにくかったかもしれませんが、目的というのは採用する人を決め、社内の強みの行き先を決め、みんなの判断軸を決めることになります。
そのため、後でつけたしたように会社の目的を作ると、社員は困惑しますし、お客様はその会社の一貫性を認識しづらくなります。

3.【どのような目的が良いのか】

先ほどの例ではかなり限定的な目的を定めましたが、本当はより広い目的にすべきだと思います。例えば「ペットの幸せと飼い主の幸せをつなぐ会社になろう」とかといった目的であれば、動物の種類も増えますし、海外に展開するとしても違和感のない目的になると思います。ポイントは「大きく」です。夢も範囲も将来のビジョンも、より大きいほうが目的になりやすいと感じています。
さくらインターネットの場合「私たちは、人々とビジネスの可能性を広げるデータセンターサービスの提供を通じ、インターネットによってひらかれる創造性と驚きに満ちた未来の実現に貢献します」というミッション(使命)を持っています。いわばこれが、会社が存続するための目的です。
言いかえると、さくらインターネットが世の中に存在することによって、お客様がインターネットで行いたい面白く有意義なサービスが、世界中に羽ばたいていける、ということです。
また、インターネットにとって良いことをしようという価値観も同時に含まれており、インターネットにとって良いことは世の中にとって良いことだ、という文化につながるとも考えています。
ちなみに、目的を作るにあたっては、自らもほかのひとたちもワクワクできるものであったり、共感できるものであったりしなければならないと思います。
例えば「株主への価値を最大化します」なんて言われても、従業員や顧客はしらけるだけです。
また、創業者の想いや情熱とつながっている必要もあります。私の場合、学生時代にサーバーが大好きで、知人にサーバースペースをレンタルし、その人たちが有用なコンテンツを発信しているのを見て、自らのモチベーションにつなげていました。
また、1996年に秋葉原の店頭にあるインターネット体験コーナーで、自分の管理するサーバーにある色々なサイトが外部から普通に閲覧できることを体感し、インターネットは単なる技術ではなく、色んな人が色んなコンテンツを発信し、色んなところから自由に利用することができるという、いわば「インターネットの価値観や文化」を垣間見て感動したことを思い出します。
このように、インターネットの持つ自由さや、それを使って発信する人たちの感動を胸に、私は今でもさくらインターネットでの仕事を楽しんでいます。

4.【さいごに】

目的を後から作ることはできますが、それを浸透させることは非常に困難です。すでに居る社員が、同じ目的を共有できるかどうか分かりませんし、お客様が持つ印象を変えることもできません。
起業するときや、創業間もないときには、目的を浸透させることが容易です。
何をしている会社かわからないなんてことにならないためにも、「目的は何か」「ミッション・使命は何か」「どういう設立趣意書にするか」ということを、楽しみながら考えてみてください。
最後に、私の大好きな設立趣意書を紹介します。

真面目ナル技術者ノ技能ヲ最高度ニ発揮セシムベキ
自由豁達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設

技術者がその技術力を解き放ち、楽しい「理想工場」を作ろうという設立趣意書で、いまのSONYになる前の東京通信工業のものです。
まさに技術のSONYの原点ともいうべきものであり、近年に行われた工場の閉鎖や外注化と、業績の悪化との関連性を感じずにはいられません。
会社の目的はお金儲けをすることではなく、最初に決めた「目的」を大切にすることが、強い会社を作るために必要なことだと思います。
これから起業される方や、間もない方々には、ぜひ理念を作り、その理念を浸透させることに努力してもらえるとうれしいです。

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