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Mentor’s Eye 安達 俊久氏 メッセージ

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 ■第1回「~起業家精神こそが日本を変える~」                       [2013/06/17メルマガ配信]
 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社
 代表取締役社長 安達俊久氏
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 昨年末の再度の政権交替を経て、巷間アベノミクスの「3本の矢」とされる経済政策の是非とその効果に関する議論が喧しい。株高と円安が一定の効果を発揮し、国民の間に先行きの明るさと期待感を齎したことは紛れもない事実であり、ここは一喜一憂することなく、産業界全体で第3の矢、成長戦略の本質を見誤ることなくしっかりと対応していく必要がある。 経済は良くも悪くもセンチメントが占める影響は計り知れず、日本の成長戦略をしっかりと実現させる絶好の機会と言える。
  
  90年代初頭からベンチャー業界に身を置いて20有余年。それは栄枯盛衰の歴史であり、新陳代謝の連鎖によるベンチャー生態系の進化には目を見張るものがある。ここでは、最近強く感じている3点について述べていきたい。

1.レガシービジネス延命の限界 

 昨今の大手家電業界の不振には歯痒い思いをしながらも、ここは冷静、且つ客観的に成長戦略の本質を見極めなければならない。1990年のバブル崩壊以降の20年間は、大半の日本企業にとって、「選択と集中」の美名に名前を借りたリストラの繰り返しであったと言える。その結果、内部留保が蓄えられ、筋肉質の体質になった。
 しかし、ここで強く指摘しておきたいことは、過去・現在のビジネスモデルに拘って、実際に行ってきたことは将来のチャンスの芽を摘むリストラ、つまり未だ利益を生まない新事業のリストラではなかったか?併せて、社内リソースに拘り過ぎた閉鎖的自前主義ではなかったか。その結果、家電業界に代表されるように、グローバルな競争力を失い、新製品開発力においても後塵を拝するようになった。 
  昨今、成長戦略の手段として、官民ファンドの予算化のニュースが、メディアを賑わしている。公的資金の呼び水効果を否定するものではないが、官が主導してレガシービジネスの単なる延命を図るばら撒き投資になっては本末転倒だ。失われた20年を繰り返さないためにも、成長戦略は民間主導で、その多様性を競うことで新産業創出を加速させることに本質的意義がある。
 そのためにも、今こそ更なる規制改革を推進すべきだ。リスク満載の新事業・新ビジネスモデルに果敢に挑戦するベンチャーに対して、規制緩和を社会全体が容認する必要がある。筆者は昨年4月来、日本版JOBS法(上場審査基準の見直し等)の導入に取組み、先日の規制改革会議において関係者のご理解を頂けるところまできた。今後更に規制緩和を積極的に促し、新興企業による新産業創出に努めていきたい。

2.イノベーションは温故知新

 温故知新は、「子曰く、故きを温ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし」と訓読される。その意味するところは、歴史・思想・古典など昔のことをよく調べ研究し、そこから新しい知識や見解を得ることである。この論語の教えにこそ、イノベーションの原点があると考える。イノベーションは、何も革新的な技術やノウハウだけが成しうるものではない。
 日常生活の中から思いがけず産み出されるものにこそイノベーションの糧となり得る真価が存在するのではないか。 
 昨今シリコンバレーでは、日本の古き良き美意識である「侘び・寂び」から物事の本質を学んでいると聞く。一昨年の東日本大震災で一気に使用頻度が高まったツイッターや、GPS機能をWebの世界に取り込んだフォースクウェアなどは、この「侘び・寂び」の思想を取り入れて基本設計したと言われている。 
  日本が持つ深みのある伝統・文化と先進的な考え方が融合する場所で触媒機能を果たし、イノベーションとして昇華が始まるではないかと考える。日本人は欧米と比較し、相対的に起業家精神に乏しいという議論をよく耳にするが、筆者はその議論には全く与しない。
 1960-80年代の高度成長期をリードした、日本が世界に誇る「ものつくり」技術は、2000年に亘る日本人の持つ伝統・文化が基盤にあったとする考え方の方がしっくりとくる。 
 そんな日本の文化やライフスタイルの魅力を付加価値に変え、新たな成長産業群として、欧米市場はおろか新興国市場の旺盛な需要も獲得し得る産業の代表として、いわゆるクール・ジャパンが存在する。
 日本人の持つ固有の「衣食住」に根差した発想を新たなイノベーションとして具現化し、世界に広めていくことが、国の成長戦略にとって一つの解を与えていると確信する。
 「温故知新」と言う論語の教えにイノベーションの原点があり、日本の国のかたちを創る礎となるのではないか。

 3.三つの挑戦と日本創生戦略

 所謂失われた20年、加えて2011.3.11を経て来た現在の日本は、三つの課題を抱えている。

  • 東日本大震災からの復興
  • 世界最速の少子高齢化への挑戦
  • グローバル化への挑戦

 黒田日銀総裁の大胆な金融緩和策によって、漸く極端な円高が修正されたとは言え、日本企業、製造業に限らずサービス産業においての海外進出つまり日本空洞化の流れは止まらない。
 実は、筆者が注目していることは、ベンチャー業界においても日本空洞化が予想を遥かに上回る速度で現実のものとなっていることである。
 ベンチャー起業家がグローバルスケールでの夢の実現を目指していることは称賛に価するが、一方国内市場とそれを取り巻く諸制度に魅力がないことも否定できない事実である。
 先述した三つの課題への挑戦に即効薬はない。 しかし、今始めなければ何も起こらないことも事実である。
 ここでは、以下三つの処方箋を提言したい。

  • 人材の多様化女性、高齢者、外国人の戦力化
  • 一極集中から多極分散
  • 大企業から中小ベンチャー企業へ

 課題先進国の日本にとって、経済学の泰斗ピーター・ドラッカーの箴言が改めて胸に刺さる。
 目標とする対象があった時代は、キャッチアップ戦略で高度成長を成し遂げるごとができた。しかし、成熟した先進国経済の成長力を左右するのはイノベーションをおいて他にはない。そのイノベーションは予測不可能なものである。
 だからこそ思い切った規制改革が必須条件である。大企業中心に拘束して来た制度は、自由な発想、大胆なチャレンジに最も遠いものである。多様性という言葉にその解があると信じて疑わない。人材の多様性、ビジネスモデルの多様性、資金の流れの多様性等々。規制改革を始め、社会全体でリスクを取る起業家を盛り上げていきたい。

 ~起業家精神こそが日本を変える~この言葉を常に肝に銘じて、ベンチャー起業家支援に努めていきたい。

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