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プロコン特別講演会

伊藤 祥一1 ・寺元 貴幸2 ・江原 史朗3

1 長野工業高等専門学校 電子情報工学科(〒381-8550 長野県長野市徳間716)

E-mail:shoichi@nagano-nct.ac.jp

2 津山工業高等専門学校 情報工学科(〒708-8509 岡山県津山市沼624-1)

E-mail:teramoto@tsuyama-ct.ac.jp

3 宇部工業高等専門学校 制御情報工科(〒755-8555 山口県宇部市常盤台2-14-1)

E-mail:ehara@ube-k.ac.jp

1. はじめに

 平成27年10月11,12日に長野県のホクト文化ホールにおいて第26回全国高等専門学校プログラミングコンテストが実施されました.その大会の特別講 演会において,舞鶴高専の卒業生でさくらインターネット株式会社を創業された田中邦裕氏と福井高専を卒業され株式会社jig.jpを創業された福野泰介氏 の対談が行われました.
 講演会は司会の今野氏を交え,3人による座談会形式で行われました(図-1).起業の経緯から苦労したこと,お二人の高専に対する印象など大変興味深い内容でした.
 以下,特別講演会の様子をお伝えします.

高専プロコン特別講演会の様子

図-1 特別講演会の様子

2. 自己紹介・起業の経緯

今野  特別講演会という大変殊勝なタイトルをつけていただいたんですが,今日はそれに恥じない,高専卒起業家としてはナンバー1,2の方々をお招き して,『高専生からの起業』というタイトルで30分だけお時間をいただいて,皆さんの助けになればいいかなという風に思っています.
田中  皆さん こんにちは.舞鶴高専出身でさくらインターネットという会社の代表をしてます,田中と申します.私96年に創業して,98年に舞鶴高専を卒業してますの で,4年生の時に18で起業しました.今年で19年目ですので37歳です.今日はいろいろとお話できればと思います.
福野  こんにちは.jig.jpの福野です.眼鏡好きにはたまらない福井県鯖江市に会社,開発センターを置きまして,福井高専をはじめいろんな高専生でオタマート,検索プラスなどなどスマホ向けのサービスを作り つつ,私はオープンデータとIchigoJamを使って毎日楽しんでおります.実は田中さんの一つ下の年代になりまして,いずれは,いつかはさくらイン ターネット越えを目指してます.よろしくお願いします.
今野  早速なんですけれども,ズバリ何で起業をされたんでしょうか?田中さんは在学中に 創 業をされて,福野さんも就職は特にせず,フリープログラマーから起業という選択肢,意志決定をされたと思うんですが,なぜそういう意思決定をされたのかと いうところをお伺いしていいですか?
田中  私はもともとロボコンやろうと思って高専に行って1年間はロボコンもやってたんですけれども,途中で イ ンターネットが3年生ぐらいの時に入ってきて,はまりまして,サーバが大好きになりまして,学内でサーバを立ち上げてました.ただ,田中というやつが学内 にサーバを勝手に立ち上げてウェブサイト貸してるらしいとタレコミが入って,よくないんじゃないかと怒られまして,仕方がなく学外にサーバを置いてお金を 取るようになったのが96年,創業の時です.ちなみにその時からさくらインターネットという名前でやってました.
今野  メンバーはどうやって集めたんですか?
田中  高専って3年生が終わっていろいろ事情があって社会に巣立っていく人が結構いて,私の1年下の巣立っていった子を無理やりスカウトして,二人で最初はやってました.その彼は今は引退して大金持ちになってまして.
今野  株主として?
田中  株主として.今はIoTだIoTだって言って大阪の日本橋に店開いて頑張ってます.
今野  じゃあ福野さんはどうでしょう?
福野  私は消去法で決めた感じです.高専卒業して進学か就職かって言われますよね.どっちも嫌だなって言って,結局どっちもしなかった結果,会社をつくったという感じです.
今野  当時でもお二人はやっぱり変な学生だったのですか?変人のエピソードはありますか?
福野  私は常に非常に真面目なんで,授業中一番前の席に座ってノートパソコンを開いて,コンセントの届くところっていう定位置でした.
今野  で,違うことをしてたんですか?
福野  そんなことはないです.何してんだって言われたら,いや,ノートもとってますみたいな.
今野  田中さんはどんな学生だったんですか?
田中  私,非常に多忙でして,ロボコンもプロコンもやるって普通無いじゃないですか.あと吹奏楽部で指揮者やってまして,指揮者がいなかったらちょっとさす がにクラブ動かないじゃないですか.だからさぼれないし,さくらもやってましたし,とにかく多忙で24時間,授業中以外寝る時間がないというなかなかハー ドな日々を過ごしてまして.
福野  僕は一応高専2年生ぐらいからバイトを始めまして,外からの依頼でプログラム作るっていうのが楽しくなって, 同 じく3,4年ぐらいになるとネットが出てきて,テレホーダイっていう学生の生活を破壊するような制度をNTTさんが発表され,朝8時までネットで粘ったあ と,一眠りするのを我慢して学校に行って寝るみたいな感じでやってました.
今野  じゃあ,お二人はよき休憩場所として学校を活用されて、高専を卒業された.
福野  でも赤点無かったですよ.
田中  私も一応留年せずにストレートで5年間で卒業してますんで.一応学業はしっかりとやるということを言っておかないと,学生さん,授業中寝ていいってことになるとちょっと良くないんで.
今野  いざ起業をするとなると,それこそ学校の勉強とちょっと違って,大人も全て横一線で勝負になってくると思うんですけども,お二人とも大体卒業してから20年ぐらい近く経って,起業して一番辛かったことってなんですか?
福野  辛かったこと,なんだろうな?ないですね.逆境であればあるほどなんかワクワクする,ドラゴンボールの悟空みたいな心境ですかね.ドラゴンボールの悟 空ってなんかいつも死にそうになって強くなるじゃないですか.ああいうのかっこいいなと思って.ひどい案件を受けちゃってやばいなって思うことも自分も楽 しむみたいな感じですよね.
今野  そういう人が起業に向いてるんですかね?
福野  そうですね.学生に例えて言ってるのですけど,クリボーが出てこないマリオ、落とし穴がないマリオって面白い?みたいな.ゲームっていうのはやっぱりリスクがあるから面白くなるんですね.それと同じですと.
今野  なるほど.田中さんはどうですかね?
田中  そんな立派なことは言えなくて,山あり谷ありだったんですね.いろいろあるんですけども,時間も無いんでかいつまんで話すると,ネットバブルの時に私 起業してるので,すごくたくさんのベンチャーキャピタルさんからお金を集めて,その後にすごい投資をして,ネットバブルが一気に去っていくというですね. サーバーなんか何億も投資したのに売れない,そういう時期もありましたし,あと上場を目指そうっていう風になっていった時に,短パンで会社に行っていいか どうか論争っていうのが巻き起こってですね.別にええやないかと思うんですよ,別に短パン,Tシャツでもね.でもなんか一緒に創業したメンバーの中で, やっぱりよくないんじゃないかっていってルールがたくさんできちゃって.極め付きは,上場して2年ぐらいで新規事業が全部失敗して,債務超過になって倒産 しかかるっていうですね.その時にもうこんなとこで社長やってられないっていうんで,一時社長を退いたんですけども,その間に会社が傾いて,債務超過の一 番どん底の時にまた社長やるはめになって.お金を借りるため奔走しました.なかなか辛い.資金繰りとか結構大変な思いしましたよ.
今野  会社の社長となると、ものづくりだけじゃないですもんね.
田中  根っからのエンジニアなのにスーツ着るっていう一番の苦痛を味わったんですね.
今野  逆に起業のお薦めみたいなところはあるんですか?
福野  決めたポイントは,人から言われて何かするって嫌だなというところです.人の思いと自分の思いって絶対違いますよね.自分の思いを優先したいんです よ.でもうまくコミュニケーションできないので,言いくるめるとか交渉するとかそういう難しいことできなかったんで,純粋に嫌だなと思って.もう私は向い てないなと思ったんですね.社長のいいところはほんとに自分で決めたことをできること.仮につらいことであってもそれは自分で決めたことなんで,自分で決 めた以上やる.そこがほんと社長やって良かったなって思ったことですね.
今野  田中さんはどうでしょう?
田中  人には,自分のやりたい 思 いを実現したい人と自分のやり方を通したい人がいると思います.思いなのかその実際の手段なのかに依るんですけれども.私は何をするって目的がすごく強い 人間で,とにかくサーバが好きで,それが気持ち悪いって言われるタイプの人間なんです.サーバがいいか悪いかっていうことは論争したくないんですね.サー バ好きだからいいじゃないかって社員に言い聞かせるんですけども.その手段,どういうふうにサーバを運用しようかっていうところに思いを持ってる人だった ら,サーバへの強い思いを活かせる会社に就職してもいいでしょう.ただその思いの源泉をつくれるのが社長の特権だと思いますね.そういう意味では創業して 良かったかなと思います.

3. 高専生の強み・弱み

今野  お二人とも高専出身で,高専生を積極的に採用されていると伺っていますが,実際社会に出て高専生の強み弱み,どういうところにあったりしますか?

福野  強みはあっという間に創れるっていうことですね.高専生にとっては当たり前だと思うんですけど,本当に創れない人が多いんですよ.なので創れるっていうのが最大の強みだと思います.弱みで言うと,遊びがないというか.高専の世界だけしか見てないと,やっぱり偏りが激しすぎる.社会の1パーセントしかいない存在なので,そこを認識できないまま社会に出ちゃうと,ちょっと変なやつっていう形で浮いちゃうというか.うちみたいに高専生ばっかりだといいんですけど,そこはもったいないですね.意図的に意識的に高専外に出て,いろんな人と遊ぶっていうか話をする機会,または何か創ったものを外に出して使ってもらう機会とかを増やすと,高専生のデメリットはなくなると思います.

田中  高専生の強みですが,技術力もあると思います.大企業に入ってそのまま普通に仕事ができるというところは,すごく強いんだろうなと思うんですが,その半面さっきの福野さんの話とかぶるかもしれないですけど,技術以外のところへの洞察力というのが比較的少ないのかなと思っていて,社会に出ていいように使われてる高専生って結構多いんですね.だから大企業に行っている同期が,やりたいこともあったと思いますが,普通にプログラミングとか設計をやってると.ほんとに面白いのかな?と思いながらも,それなりの給料をもらって結婚して子どもができて,エンジニアリングよりも子どもの方が,みたいな生活が好きみたいな感じになっていくのを見て,幸せなんだろうけども,結局技術だけでは技術者は続けられないんだろうなと.そこが弱みだろうなと思います.ただ同期はみんな子どもができて幸せそうにしてます.それはそれでいいのかなって思います.ただ技術者としてはどうなんだろうと思うことはあります.

今野  もったいないなと.

田中  もったいないなと.日本の社会のためにもっと活躍できるやつだったのになとか勝手に思って.

今野  何が足りないんですかね,何か高専コミュニティ全体でそれを解決するために取り組めることってあるんですかね?

田中  まずはしょうもない大企業に就職しないことだと思うんです.要は高専生はコストの安いできるやつっていうふうに社会から見られてる節があるんじゃないかなと思っていて,やっぱりそれってもったいないと思ってます.本当に働きたい仕事は何かというのを見極めて,起業しなくてもいいので,新しくできてきた会社でどんどん活躍して技術力を発揮してほしいと思います.

福野  夢を持つっていうところがなんか良くないように思われてるかもしれませんけど,実際創れる人はガンガン夢持ったほうがいいと思うんですね.イーロン・マスクが火星に行くぞみたいに言ってますけど,あれが大事なんです.夢を持っていると,じゃそれを実現する手段,これを見つけられるのは高専生なんで.その夢を持たないようにするのが実は高専教育なんですね.高専生が夢を持っちゃうとまずいっていう時代があったんですよ.高度成長期っていうのは,いち早く技術者を育てて大企業に就職させたいがためにつくったのが高専っていうシステムなんですね.その呪いがまだかかったままだと思うんですよ.50年たって高専の役割は変わったので,高専生はどんどん起業しろって言うんですけど,システム的に起業する人材を作れないようになってるのが高専なんですね.なので高専自体の殻を破る必要がある.

今野  どうしたらいいんです?

福野  なんでしょうね.一人一人が夢持ってやっちゃえばいいと思うんですね.今回(プロコン)の作品いろいろ見てるんですけど,技術ありきで,それを形にとりあえずしてみましたっていう作品は完成度がちょっと残念.やっぱりこれをやりたい,それを実現するためにこの技術やあの技術が使えたので使ったっていう、そういうアプローチを考えてみるのが変化のきっかけと思います.

今野  わかりました.先ほどちょうど二人から偶然出た話は,高専生に期待することというか弱みという意味では,技術者の方々以外の人々としっかり接して目線を上げていくっていうような話ありましたけど,お二方自身が人生の転機になったような出会いというかエピソードがあればお願いします.こうやって自分はまともな人間になったとか,ビジネスの世界で自分の次元を上げていった出会いとか,エピソードを教えてもらってもいいですか?

田中  全ての人だと思うんですよね.正直,福野さんと出会って,高専生でもこんなにすごい,あけっぴろげな人がいるんやって.いろんなところにすごい突っ込んでいくし,すごいなというのもありましたし,今野さんもそうなんですけど,すごい賢いんですよ.すごい洞察力があるし,僕が持ってなかったようなベンチャーへの視点っていうの持ってましたし,とにかくいろんな人に会うことだと思います.

福野  ちょっと変わった人で言うと,会ったことはないんですけど,高専3年生の時に夜な夜な自分がつくったチャットシステムに訪れてくれた外国人がいたんですね.俺はもう日本が嫌いだからシリコンバレーへ行こうかと思うみたいな話をしたら,外人から,お前には日本の何を知ってるって怒られたんです.それでふっと気がついたのは,確かに日本知らないなと.結構衝撃的でしたね.とにかく,自分が思ったことを言わずに溜めておくとそんな出会いはないんですよ.なんにも突っ込んでいくって言いますけど,その頃からの癖でとにかくやってみちゃうんですね.そうすると怒られるんですよ.そうするとわかるっていうそんな感じです.

今野  自ら自分に対するフィードバックループを作ってたんですね.

福野  日々実験です.

今野  今もし高専生に戻ったら何してます?どんなことをしてどんなこと考えて,何してます?

福野  まず高専の時にあまり学生らしいことしなかったなっていうの反省で,高専祭実行委員とかやりたかったなと.もう一つは寮に入りたかった.この両方,社会人になっちゃったらできないんですよね.

今野  やっぱりそれは高専生の時しかできないことをもっとやったほうがいいっていうメッセージになりますか?

福野  そうですね.やっぱり寮は寮なりの不思議な社会があって,そこでの生き方っていうのはたぶん今の社会にとって必要なシステムは何かって考える時にもたぶん役に立ちますし,お祭を開催するっていうのも,オリンピックっていう巨大なお祭がありますけど,そこにも通じると思うんですよね.そういう機会はどんどん切り込んでいけばよかったなーと今になって思います.

今野  田中さんは?

田中  私,学生生活がハードすぎて,やりたいこと恋愛以外全てやった感じです.そんなに戻ってどうってことは考えたことないんですが,あえて言うなら母校に帰って教官やってみたかったなとは思います.先生を見てるとほんとに素晴らしいなと思いますよね.学生が生み出されてくるわけですからね.私も教官に起業しろ起業しろって言われて,どうせお前なんか会社入ってもろくなことできへん言われて,今の大企業はお前みたいな,技術はできるけどもコミュ力の低いやつはたぶんうまいこと使われて終わるからって言われ続けて起業したっていう間接的なきっかけもあるので,やっぱりその学生学生の特徴を捉えて進路を指導してる教官の皆さん見てると,ほんとに敬服するし,自分もやってみたかったなと.

今野  やっぱり先生との出会いっていうのはすごく大きいんですね.

田中  大きいですね.人生の転機になったのは教官ですよ.忘れてた.怒られます.今日いらっしゃってるかもしれないね.

福野  先生は大きいですよ.先生が大きいってことを僕は卒業してから知ったんですね.僕は高専にいる間一切話を聞かない学生っていうことで有名だったんですけど,あとからいろいろ聞くと結構嫌われてたらしいんですけど,全くそんな空気は読めずにいました.

4. 未来に向けて,高専生へのメッセージ

今野  今40歳を手前にして立派な会社を経営されて,注目している技術とか動向とかビジネスとかなんかありますか,先輩として?高専生起業するのはこういうのがいいんじゃないかとか.

田中  ありきたりですけれどもハードウェア,IoTって言われちゃってるんですけども,ハードウェアとあとクラウドですね.これをつなぐ技術ってすごく面白いと思います.今回もPepper君出てましたけども,Pepper君って基本的にはあの中で処理するんじゃなくてクラウド側で処理するわけですよ.僕,攻殻機動隊が大好きなもんですから,あの世界はたぶんやってくると思ってるんですけれども,それと同時にすごくたくさんの問題が起きると思うんですね.コンピュータに支配されてるわけなんで.義手が人殺した時は誰が悪いんだと.使用者なのか義手が悪いのか,それを設計した人が悪いのか.自動運転車だってそうですよね.そんな課題がたくさん出てるっていうことはチャンスがあるっていうことなんです.学校の先生ってハードウェアとソフトウェアをリアルに両方とも触れる人が多いですから,これからの世界で必ず必要とされる技術者だし,うまく使われずに自分でビジネス化していけばすごくチャンスがあるんじゃないかなと思っています.

福野  僕は子どもプログラミングがすごい熱いなと思って.このIchigoJamを使って小学生にプログラムを教えると,ものの半年もすると好きなゲームを自分でつくるようになるんですね.そしたら親がびっくりするんで,じゃあその勢いでMacBook買ってもらえと言うと,MacBook持ってくるんですよ.Swiftでプログラムをつくりだすんですね.そしたらもうSwiftのアプリ,もうマーケットに出せばグローバルな商売できるんですよね.子どもの発想っていうのはわれわれとは全く違うので,その発想で世界中にインパクトを与えるっていうことを自然とやるっていう,そんな世代が育ってくるんじゃないかなと思います.もちろんIoTもセマンティックWebもオープンデータも全部子どもにとっては垣根なく,ただおもちゃなんでガンガン遊べよっていう話を今してます.

今野  お互いに聞いてみたいことありますか?

福野  あります.究極のゴールってなんですか?

田中  人生の,ですかね?私は幸せに暮らせりゃいいやと思っています.これって結構真実だと思ってて,幸せに暮らすっていうことをやっぱりみんな考えるべきかなと思ってるんですよ.最近,技術者にとっての幸せってなんなんだろうっていうのを,パネルディスカッションをしてモデレートするんです.技術者になるっていう手段を使って幸せな家庭をつくってもいいし,それとも世界に冠たる技術を発明して幸せになるのもいいし.僕,実は何が一番幸せなんかまだ見つけてないんですけど.自分探しの旅っていうと馬鹿にされるんですけれど,一度こういう話があったんです.最近スキューバダイビングにはまってまして,毎日スキューバダイビングをする生活ができるんだったらどうしようってうちの妻とディスカッションして.会社を売っぱらって毎日遊んで暮らすという選択肢があるのかっていうと,無かったんですよね.これって真理だと思ってて.わざわざ朝起きて二日酔いで会社に行かないといけない.もうすぐ決算発表だとかって言って投資家に怒られる.そういう生活がいいのかっていうと嫌なんですよ.嫌なんですけども,その生活から離れてストレス無く生きたいかっていうと,そうではないんです.それはどうも幸せじゃないということで,とにかく今は明確に言えないですけれども,一人一人がそれぞれ違う幸せを探していこうというのを私はやめたくないし,そういう考え方を啓蒙したいなと思ってます.

今野  逆に福野さんのゴールは?

福野  僕のゴールは,人類の終焉を見たいなと思ってます.

今野  AIに支配される世界?

福野  そういうシナリオもありますけど,たぶんそれも違うと思うんですね.今ほんとに創造のスパンが究極に短くなってきてる.どんどん,どんどん進化のスピードが速くなっていくと,どっかで終息しますよね,工学的に,普通に.それを速めることで,たぶん自分の寿命の中でたぶんどっかで収束しそうな気がするんですよ.それを見たいと思うんですね.2012年に一日一創って始めたんですけど,田中さんの影響なんです.一時期社長をやってて,なんか経営判断みたいなやつばっかりやってたことがあって,ふと田中さんがジェネレータつくっているのを見て,うらやましいな,やっぱつくらなきゃなと思って,一日一創で何かつくること始めたんです.つくればつくるほど,周りのイノベーションの速度が速まっていくっていう,その感覚がすごい楽しいですね.たぶん,今育った子達が究極的なAIとか訳わからんロボットとかつくってくれると,たぶん人類の終焉時期がだんだん近くなってくる.その先がどうなるかきっと見れるんじゃないかと思って.まだまだ速めていきます.

田中  一つ思い出した.私,コンピュータに支配されたいんですよね.そして,そのコンピュータを支配したいんですよね.要はコンピュータと対等の立場になりたいと思ってるんですね.コンピュータとやるかやられるかみたいな.そうすると人類の間で戦ってんのってばかばかしくなると思うんですよ.全部自分の考えてることなんかもクラウドにオフロードしたいと思いますし,このままいったら2035年にシンギュラリティがきて,人間のAI以上の仕事になるんで,今度は人間の思考力まで奪われてしまうっていうんで,ワーワー騒いでますけども,それってチャンスだと思うんですよね.そのコンピュータを支配する側になったら,なんか世界の覇者になれそうな.究極の幸せがやってくる.人類補完計画.

今野  怖いですね.

田中  そういうのがあるんじゃないかなと思うんですね.

今野  なるほど.わかりました.話は尽きなくてまだまだ聞きたいことがあるのですが,最後に,この会場にいらっしゃってる方々,もしくは映像を見られてる方へのメッセージをお願いします.

福野  ほんとに世の中面白いおもちゃだらけで,一昔前と違って全部無料で使えちゃうっていう恐ろしい時代です.今の世代よりも若い世代はさらに優位な状態でスタートするので,ぜひ先行逃げ切りで創りまくるっていうことを,皆さんたちもぜひやって楽しんでもらえばなと思います.ぜひみんなで人類の終焉を見ましょう.

田中  産業革命っていうのは18世紀,19世紀ぐらいに終わって,人間の手でやってたものが機械でやるようになって,いわば機械に仕事を取られたわけなんですよね.でもそのおかげで奴隷制度ってのがなくなったりして,解放されて社会良くなったはずだと僕は思ってるんですね.21世紀になって機械がやってたこと,生産手段ですね.機械がやってたものを換装しないと社会を変えられないようになってきたと思うんです.富を得るために何を供給するかっていう議論なんですけど,産業革命前って労働力を供給してたんですね.それに対して19世紀20世紀ぐらいは資本力を投下してリターンを得てたんですけれども,今度21世紀になってから資本を投下してもリターンが返ってこないというのに気付き始めてます.何を投入しないといけないかっていうと,クリエイティビティ.いわゆる知識ですよね.発想を投入しないと社会を変えられないという時代になってるんですね.アメリカでは実際そうなってますし.だから高専はものづくりの時代に生まれてきた制度だと思うんです.要は生産機械をつくるための使者として育てられてきたんですけれども,これからはやっぱり知識を投入しないといけない.資本ではなくて知識を,クリエイティビティを投入しないといけない時代に変わってます.人間が知識を投入して富が得られるということを実感していただいて,そういう教育をしていただきたいなと.その中で無駄も必要だと思ってます.正直効率の時代から無駄の時代にかわったんじゃないかと思っています.正直,無駄っていうのはスケールによって変わると思うんですね.例えば1年単位で見ればそれ無駄かもしれないけども,10年単位で見れば100年単位で見れば無駄だと思ってたことがそれが必要なものになったりする.とにかく手を動かして時間をかければいいものがつくれるではなくて,発想力と実装力で世の中が良くなると.その真正面にいるのが高専生ですから,そういうところに真正面から取り組んでいただいて,一緒に世界を変えていきたいなと思います.

今野  もっともっと評価されてしかるべき能力と才能があるということ.

田中  しいて言えばブランディングが高専に一番足りてないように思います.

今野  そこはロールモデルの二人が引っ張っていただければと思います.もう1つ,やっぱりこの数年で人間そのものの存在が問われているかなという中で,より高専生,ものづくりで生きる方々はその個性を引き出せるタイミングが今まで以上にきてるということなのかな,と聞いてて思いました.ちょうど時間になりましたので,こちらで終わりにします.ありがとうございました.

5. 終わりに

30分の短い時間でしたが,非常に刺激的なパネルディスカッションとなりました.教員として,学生にいいきっかけを与えられるように勉強していかなければならないと感じました.

出典「日本高専学会誌 2016 7 Vol.21 No.3 p.45-50 日本高専学会」